多様な就労困難者の方々を支援されている方々のバックアップをめざし、2022年11月7日(月)、9日(水)、22日(火)、25日(金)の4日間、「ダイバーシティ就労支援実践研修」(主催:日本財団)を実施しました。研修時に頂いた主なご質問に対し、研修講師の皆様から、ご回答を頂きましたので、ここに「ダイバーシティ就労支援実践研修Q&A」として掲載します。参考にしていただけると幸甚です。

ダイバーシティ就労支援研修Q&A

第1日

第2日

第3日

第4日

第1日(11月7日)

【鈴木講師(就労支援制度の理解1(障害・生困・生活保護))】

Q1:ご本人の状況として非雇用型の就業継続が取り合えず適切と考えられるが、ご本人が雇用型を希望されている場合、などでの支援者のアセスメントをご本人に伝える際の方法など工夫されていることがあれば教えてください。

A:非雇用型のほうが適切であると考える根拠を客観的に示す上で、アセスメントツールの活用や就労体験などで実際の体験活動をしながら振り返りを行っていくことが大切かと思いますが、そうした丁寧な積み重ねがあってもご本人の意思が変わらないことはままあることかと思います。そうした場合は、あえてご本人の希望どおりの支援に乗っていくことも大切かと思います。その中でうまくいかないこと、失敗してしまったときが非雇用型に切り替えていく機会になっていくことも十分ありえると思います。
雇用型に支援方針を切り替えたときも、うまくいかなかったときのための選択肢を支援者側で色々と用意しておくと、ご本人も納得して切り替えることができると思います。

Q2:ダイバーシティ就労モデル事業in千葉の現在の進捗状況について教えてください。

A:千葉では、A型、B型、就労移行支援事業所、障害福祉サービスの地域資源がないエリアについては2社ほど一般事業所に登録いただき、実施しております。
現在、50名ほどの新規申込みがあり、40名近くの方が利用を開始しているという状況です。9月から開始した事業ではありますが、思った以上に反応がよく、盛況です。また当初、当事者のみなさんが「障害」という言葉に抵抗があるのではと考えていたのですが、それよりも自分が安心して働ける場なのかどうかというところをしっかり見て検討していただいているようです。
また、実際に利用されて、もともと障害があるのでは?と考えていた方でも、実は経験不足や認知のずれがあっただけで、一般就労に切り替えることができるのではと思われる方もいらっしゃっており、やはり実体験の中でのアセスメントや本人の納得感の強さを感じます。

Q3:他の分野と比べると、「障害福祉分野の就労支援」はどういう点で充実していると感じられますか?制度面ですか?予算面ですか?

A:制度面でも、予算面でも充実していると思います。また地域に多様な資源が点在しており、どこかで合わなかったとしても、別の場所にその機会を見つけることができたりするので、選択肢が多様にあるということは他の就労支援制度ではなかなかないのではないかと思います。
現在、ダイバーシティ就労で障害福祉サービスの事業所を利用させていただいておりますが、ご本人の得意不得意に丁寧に寄り添ってくださる支援は、一般就労で挫折してきた当事者にとってはとても安心できる場のようです。

【志村講師(就労支援制度の理解2(雇用訓練制度(サポートステーション含む))】

Q1:生活困窮者の就労準備支援事業に、職業訓練受講給付金のような制度の検討はされていないでしょうか?

A:ご質問の段階の対象者に求職者支援訓練制度として給付金を支給することは困難です。
ハローワークの現場では、関係の福祉事務所と連携して地道に就労準備段階からの相談・助言等で求職者支援訓練が利用可能な環境にまでつなげることに注力しているのが現状です。
 (※)求職者支援訓練(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyushokusha_shien/index.html

Q2:職業訓練の内容には地域間格差(地方都市)がありますが、障害者の多様な委託職業訓練制度をダイバーシティ関係就労者に活用できるような制度の検討はできないでしょうか?

A:厚生労働省が都道府県を通じて実施している障害者の委託訓練事業は、企業をはじめ社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等地域の多様な委託先で訓練を行い、対象者が1人の訓練でも可能な制度設計になっております。地域によって設定の状況に違いが生じることは否定できませんが、ご指摘の「ダイバーシティ関係就労者」に活用可能な条件が成就するよう、関係の取組、努力を期待したいと思います。

【春名講師(就労困難者のニーズをつかむ、支援をつなぐ、支援を使う)】

Q1:病気前後の職業能力の低下による評価にあり方について、 当事者の不利益にならないためにはどのように考えていくことが適切でしょうか。

A: 病気や障害の情報を一面的に伝えると「仕事ができない、支援や配慮が負担等」と本人も企業関係者も考える危険性があります。合理的配慮や、治療と仕事の両立支援、障害者雇用支援等の専門知識を有する支援者と情報交換して、能力を発揮して仕事を続けられる方法の選択肢について、ご本人や企業関係者に適切に情報提供し、個別に支援していくことが重要です。アセスメントは職業能力や就労可能性を判断するものではなく、就労支援のノウハウがない人の判断は職業能力の過小評価となり差別の原因となることに注意が必要です。

Q2:医療側の見立てと企業側の見解の相違にご本人が板挟みになって、退職になるという不幸を防ぐために、どのような調整を企業側で進めていく事がよろしいでしょうか。

A:医療と企業が密接な連携により治療と仕事の両立を支えていくことが重要ですが、現実にはコミュニケーション不全になりがちです。そのため、厚生労働省から、事業場における治療と仕事の両立支援ガイドラインが出ています。企業側では労働者と相談して「勤務情報提供書」で仕事内容や職場の状況等や留意事項等の意見を聞きたい内容を主治医に伝えます。主治医は両立支援のためという目的を踏まえ「意見書」を労働者に出します。それを元にして企業では両立支援プランを作成し、関係者で共有します。

Q3:ジョブコーチ支援やIPS等、仕事を始めてからの支援の重要性について伺いましたが、日本の就労支援はいまだにレディネスモデル、就労前訓練をメインとする事業所等が多いように感じます。こうした支援機関の考え方を変えていくにはどうすればいいとお考えでしょうか。

A:従来「一般就業が困難」とされてきた障害者の一般就業を目指すなら、仕事内容や職場条件との個別マッチングや、仕事に就いてからの医療面や生活面の継続的支援が重要であることは明白であり、既に多くの地域関係機関はハローワーク、障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチ支援、就労移行支援事業等との連携により、障害者の個別支援ニーズに対応するようになってきています。しかし、従来、障害者は一般就業では働けないことを前提とした専門教育、法制度、サービスが構築されており、そもそも一般就業を目指していなかったり、一般就業を非現実的だと考えている就労支援機関が残存しているのも事実です。そのような支援機関や支援者には、障害者就労支援についての基礎的な研修訓練を実施し、ジョブコーチ支援やIPS等は就労前に準備支援よりはるかに高度で効果的な支援であることやその成功例を示すとともに、組織転換や人材育成ができるようにする助言援助が重要です。

【朝比奈講師(地域共生社会の理念の現実化と、重層的支援体制整備事業)】

Q1:措置から契約へのパラダイムシフトのなかで、多くの相談支援者の支援観がパターナリズムから脱していないという印象をもちます。この点に関して朝比奈講師のご意見をうかがわせていただけましたら幸いです。

A:基礎構造改革からもう20年が経過しています。なので、「措置から契約に変わったのに」ということではなく、そもそも提供サイドが社会モデルとしての「障害」を適切に理解しているのかといった本質的な問題を含んでいるのではないかと感じています。

Q2:重層的支援体制整備事業におけるメインプレイヤーはどこが担うのでしょうか。

A:それぞれの地域によって、担い手は多様なのだと思います。
これまで地域福祉は中心的に社会福祉協議会が担ってきましたが、自治会などの地縁組織をベースとした活動だけでは地域の課題に対応していくことが難しくなっています。福祉や介護事業を実施する社会福祉法人やNPO法人はもちろんのこと、福祉の枠組みを超えて教育や居住支援、産業振興、まちづくりなども含め幅広く柔軟なネットワークをつくっていく必要があり、自治体が地域のさまざまなプレイヤーの動きを把握し、全体としてデザインしていくことが求められていると思います。

Q3:「自律する力が落ちている」というお話しがありましたが、「自己決定」のもとに、安易な選択をする機会が増えてしまって、自分を律する力が落ちている、という理解でいいですか?

A:自己決定のためには豊かな環境が必要だと考えており、孤立の問題が深刻化している
為、結果として不十分な自己決定をせざるを得ないという意味で申し上げました。

第2日(11月9日)

【藥師講師(態様別理解(LGBTQ))】

Q1:LGBTQの方は増える傾向にありますか?

A:セクシュアリティ(性のあり方)はアイデンティティで無理に変えることはできません。そのため、LGBTQに関する理解促進等により減ったり増えたりすることはありません。なお、LGBTQはさまざまな国の調査をみても、一定割合です。

Q2:ご相談者のお名前と見た目が違う場合、戸惑います。お名前の間違いのこともあります。ご本人にLGBTQであることを確認する行為はやはりパワハラになりますでしょうか。

A:どなたであっても、お名前が間違っていることもありえます。そのため、「お名前と見た目が違う場合」だけでなく、どなたであってもプライバシーを保ちながら、お名前を確認する方法を検討されるのがいいかと思います。
お名前の確認方法はさまざまありますが、例えば、「私は〇〇です。△△さん、本日は何卒よろしくお願い致します。」等、セクシュアリティを聞かずとも、お名前を確認する方法があります。
なお、セクシュアリティを無理に聞き出す行為は、SOGIハラスメントに該当することがあります。

Q3:具体的に手術などの相談を受けたこともありました。この辺の情報はネット等でも広く収集できるものでしょうか。

A:性自認に身体の性別を近づける性別適合手術等については、ネットで収集することもできますが、正しくない情報が載っていることもあります。専門医(ジェンダークリニック等) から、必要に応じて情報を得ることをおすすめします。

【竹内講師(態様別理解(刑務所出所者等))】

Q1:刑余者(刑務所出所者等)支援を行うにあたり、協力をいただくべき施設や機関をご教授ください。

A:犯罪や非行をした者への指導監督は、国の機関である保護観察所が行いますが、それだけでは十分でないため、ボランティアである保護司や、法務大臣から認可された更生保護施設等が、保護観察所と協働で指導に当たります。
就労支援を行う事業者団体には、全国就労支援事業者機構と都道府県就労支援事業者機構(50ケ所)があります。全国機構は都道府県機構と連動し、都道府県機構は刑務所出所者等を雇用してくれる事業所と連動し支援を行っています。都道府県機構の半数の機構では、法務省から更生保護就労支援事業を受託し刑余者の就労と定着を支援しており、また5か所の機構では、厚生労働省から協力雇用主等就労支援事業を受託するなど、幅広い事業を展開しています。各都道府県機構の事業内容には団体ごと違いもあるので、各機構に問い合わせ願います。

【鈴木講師(アセスメント概論1:インテーク~支援初期アセスメントについて)】

Q1:日々の業務に追われて支援中期以降のアセスメントの記録が不足しています。効率的な記録の取り方はありますか?

A:私自身も日々、そこに悩みながら業務を行っております…。支援中期以降については、初期のアセスメントから「本人がどのように変化しているか(どのようなプログラムをきっかけに)」を重点的に記載していくように心がけております。逆にいうと、大きな変化がない場合は実施したプログラムや本人の様子を簡単に残す程度で、記録でもメリハリをつけるようにしています。
記録のとり方は所属機関によっても取り方のルールや特徴があるかと思いますので、一度組織の中で話し合いや自主研修などをやってみても面白そうですね。

Q2:IPSがあまり日本で広まっていないとのことですが、日本での普及の課題やデメリットなどをご教示ください。

A:IPSは多職種チームが個別継続的に支援を実施することが前提となっている点で、日本の分野別の支援では実現が難しい第一歩かと思います。また、企業内でOJTを繰り返しながら本人の回復やスキルアップを支援するためには、企業側の受け入れ理念や姿勢も問われるものかと思います。アメリカで進歩してきた背景には日本とは比較のしようがないほど多様性を受け入れる文化が成熟しているのだろうとも推測されます。
日本では未だに、健常者と障害者を区別して仕事や生活をする状態が根強く残っていることも普及の課題ではないかと思います。個人的には現在の就労支援の枠組みを大きく変えるというよりかは、IPSのエッセンスを徐々に加えながらその有効性を伝えていければと思っています。

【高橋講師(アセスメント概論2:支援経過のアセスメント~評価について)】

Q1:アセスメントを受けて、相手によっては支援者の評価をとても嫌がる方もいると思うのですが、そういった場合はどう対応されていますか?

A:支援者が行う評価が適切である場合、その評価が本人評価と異なることは良くあることです。基本的には支援員評価は本人に見せる必要はないと思っており、講義の中でご紹介したKPSビジュアライズツールの「支援員評価」も当方ではご本人にはお見せしておりません。ただ、支援の過程で、お見せするほうが望ましと判断される場合はその限りではありません。

Q2:就労支援A型事業所の者ですが、障害のある方なので、こちらの評価と本人の自覚はなかなかうまく相容れません。どのように伝えたらいいでしょうか?

A:自己認識に課題がある方は、障がいの有無にかかわらず多いと感じており、ご苦労をお察しします。特に障害のある方につては「特性」の問題もあるため、自己認識の改善はスムーズに行かないことが前提になります。そのうえで、当方では支援員の考え方を優先にするのではなく、ご本人の「物事の仕組みや状況を正しく判断する力」や「自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力」等について理解したうえで、伝え方や支援方針を検討するようにしております。そうすることで、個人差もありますが、少しずつ自己認識に変化が見えることもあります。勿論、そうではなく難しい場合もあります。

第3日(11月22日)

【佐藤講師(態様別理解3(ひきこもり))】

Q1:ご提示いただいているスライドにあるような包括的支援に向けた枠組みは、国としての取組みを受けて、佐藤講師の現場で取組んでおられることと考えていいですか?

A:私たちの団体が運営するサポステを拠点として、サポステが立地する武蔵野市を中心に近隣自治体の生活福祉課、困窮自立支援窓口、障害福祉課、児童青少年課、基幹相談支援センター等を含む関係機関、社会福祉協議会、医療機関、さらには商工会議所、商店会、近隣の職場体験等連携事業所との連携を進めています。連携によるサポステ利用者の支 援実績は年間100ケ所ほどにのぼります。さらに武蔵野市においては生活福祉課を福祉総合相談窓口として庁外関係機関(引きこもり支援団体、困窮支援団体等)が参加した総合支援調整会議(問題解決のための庁内連携)による事例検証を2カ月に1回の頻度で持ち包括的な支援をめざしています。しかし、福祉就労支援事業をも含む重層的な支援体制はいまだ十分に整備されているとは言えない段階にあるのではないでしょうか。

Q2:私の事業所の見学の方にも引きこもりのご家族の方が多くなってきました。ご家族の支援に対し、何か気をつけることはありますか?

A:何よりもポイントになるのは「ひきこもりの原因を家庭生活(親子関係)に一義的に求めないこと」、そして「共感的に親の困り感に寄り添うこと」につきます。引きこもりは、必ずしも個人の資質や親の「育て方」などの個人的・家族的な要因だけでなく、学校体験や雇用労働環境の悪化、さらには孤立化社会の進行など多様な背景が重層的・複合的に影響を与えてもたらされる状態像です。障害の社会モデルと同じく引きこもりも社会状況を背景として引き起こされます。したがって、引きこもり原因を個人的問題として本人の内部に探すだけのアセスメントはかえって本人(親)を追い込む(自己責任に還元する)ことになりかねません。親(本人)が安心して相談できるためには、本人が想起することを躊躇っていたような経験場面に深入り(侵襲)するようなことは避けなければなりません。それよりもむしろ、本人(家族)をストレス(自己責任感)から解放することの方が大切ですから、これからの回復過程に寄り添う支援姿勢がポイントになります。親も自分の子育てが責められているように感じ、足が遠のきます。そのうえで以下のようにすすめるといいでしょう。
(1)本人が相談に訪れない場合~まず、膠着状態にある親子関係を解きほぐすために、若者への向き合い方を共に探ることからはじめます。
①アドバイスや指示ではなく本人の自分の現実と向き合い乗り越えようとする(葛藤)を支えることが重要であることを確認します。なによりも本人の悩みは深いことへの共感的理解が前提になります。
②母子関係が密着しすぎることを避けるため、母親だけでなく父親の訪問も要請した方がよいでしょう。父親の役割の確認。
③本人が興味を示しそうな、アルバイトや社会参加などの情報(選択肢)を提供しながらも、本人への共感的理解に立ち返り本人のプライドを支えること、その決定は本人に任せてもらうことを確認します。
(2)次に家族をひらき若者を第3者の支援へ橋渡ししてもらう。
①本人に支援機関への関心(志向)が生まれ始めた段階で、家族を通して支援機関への訪問を働きかけてもらう。拒否されたとしても働きかけを続けるように要請します。本人は意外とそのチャンスを待っているかもしれません。
②支援者のメッセージなど面談場面を伝えてもらう。面談員は家族を通して若者と対話し支援していると理解してもらう。反応が無いように見えて心の変化は起こっているはずだと伝える。
③機が熟したら本人に勇気をもって自分(現実)と向き合ってもらうよう、相談室への訪問をプッシュし励ましてもらう。なかなか動かない本人を前にして気持ちが萎えそうな家族を励ますことも大切です。
(3)本人の支援機関への参加によって孤立から解放されていきます~支援員との信頼関係の構築、居場所での仲間との出会いが、次の社会参加・就労への起点となり緩やかに、場合によっては行きつ戻りつ社会とのつながりを回復していくでしょう。その向こうに就労への道が開けます。就労がゴールではなく孤立から解放されて社会参加を支えることが若者支援のテーマですが、でもやはり就労は本人たちの願いでもあります。

【川尻講師(態様別理解4(難病))】

Q1:急性ジストニアで苦しんでいる本人、家族がいますが、難病ではないといわれました。急性ジストニアと診断を受けて、何か助成を受けられないだろうかとの相談を受けて、難病生きがいサポートセンターを紹介させて頂きましたが、急性は難病指定されていないため、助成制度はないとのことでした。何かできる支援はないでしょうか?

A:急性ジストニアは、現段階では難病法に基づく指定難病には該当しません。
しかし、「困りごと」に対しての支援について検討することは可能です。支援の根拠となる制度は、年齢によっても異なります。通院先の医療機関のソーシャルワーカーは主治医と連携して病気や症状、障害を把握した上で、地域の相談窓口を案内します。また、保健所は保健師の他、医師や薬剤師、臨床検査技師など多職種が職員としておりますので、住民の多様な健康相談にも応じており、指定難病外の病気に関する相談もできます。

Q2:難病、障害、配慮として「休んでいいよ」などの対応をしていただけることを、配慮とは分かっていながら、それを受け入れることに「必要度が低いから、時間的に配慮してもらえる・・・」みたいな気持ちを持たれる方もいます。この気持ちの部分に、どう寄りそい、どう伝え、どう無理なく受容をうながしていけるのか?その人の仕事の必要性をどう伝えるのか?ポイントみたいなものや、事例としての例などがあれば、教えていただけませんか?

A:配慮は必要だけれども、いざ配慮を受けると「職場で自分が必要とされていないのではないか」と感じることがあるということですね。人がどのように感じ、それを誰かに伝えられたことが大切で、支援者が「受容をうながす」ことは不要です。その気持ちは否定せずにそのまま受け止めてください。
出産や育児、介護、感染症に罹患するなど、職場に十分に貢献が出来ない事情は誰にでもありますので、「お互い様」の精神で助け合える関係を日頃からつくることが大切です。面接の際に仕事の様子に加えて「ありがたかった配慮」「職場に貢献できたこと」などを語っていただくだけで、本人は癒やされ、そして新たな気づきがあると思います。

【春名講師(自治体・ハローワーク・社会福祉協議会等、公的機関との連携)】

Q1:スライド28「通勤や職場等における支援について」の確認です。「通勤等の支援として、国の施策はあるが、実施主体が市町村なので、実際の制度の運用やサービス提供については地域差が生じてしまっている」という理解で大筋はよろしいでしょうか?

A:そのとおりです。例えば、地域で仕事中の介護サービスが必要となった難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが福祉の担当者に問い合わせても、まだ当該地域では制度やサービスが整備されておらず、患者会が各地域の担当者に申し入れをして調整を進める必要があるという話を聞いたことがあります。

Q2:先日いろんな方の受け入れが出来るよう職種を増やしてハローワークへ伺いました。難病の方のお話は出なかったのですが、障害者枠ではなく、一般枠へのアプローチが良いのでしょうか?

A:障害者求人は企業が障害者雇用率を達成するために出しているものなので、障害者手帳のない難病患者が応募しても企業の目的に合わず採用されにくいのが現実です。障害者手帳のない難病患者は、デスクワークの仕事や短時間のパートの仕事など、一般求人に多い仕事で活躍できることが多いため、ハローワークの専門援助(障害者)部門では、障害者手帳のない難病患者には、各人の体調や通院等の都合を踏まえ、本人が活躍できる一般求人の仕事への職業紹介や企業側への説明等を行い、就職の成果を上げ、また就職後の治療と仕事の両立支援に繋ぐようにしています。難病患者が本人だけで一般求人に応募する場合は病気を隠しての就職で、結局、治療と仕事の両立が困難になりやすいので、専門的支援を効果的に活用することが重要です。

【西岡講師(訓練・働く場を利用した支援プログラムの作成(演習)】

Q1:現在の就労継続支援A型事業所でここまでの訓練プログラムができるのでしょうか? 給付制度や組織の構造改革が必要になると思いますが、いかがですか?

A:福祉的就労においても一般就労においても、これまで仕事情報の言語化に無関心だったと思います。福祉的就労がA型やB型、就労移行あるいは特例会社等の事業に区分され、当事者や家族等によって選択されていますが、それぞれの事業所において利用可能な仕事・作業等とそれに基づく支援プログラムは、今回示したような形で言語化されていないことが多く、わかりやすい情報がなくて当事者がそれぞれのキャリア形成にあった仕事(プログラム)の選択ができるのだろうか? よりふさわしい関心のある仕事(プログラム)に移動することも難しいのではと思います。また言語化された仕事情報(プログラム情報)が整備されない状態で、相談支援機関が実効性の高い就労アセスメントを行うことも難しい?たぶん、仕事情報(プログラム)は現場の支援者の暗黙知、現場知として利用されているのでしょう。就労支援では、職場見学や就労体験、施設外就労、就労訓練、支援付き短期就労などの形式で、さまざまな仕事と働き方が実践の中で工夫されてきました。今回、講義と演習の内容は、そうした実践を見える化、言語化する作業です。
質問のA型事業所で作成可能か?というと可能だと思います。例えば、施設外就労や協力企業での体験を開発する場合、企業等との折衝から、該当する作業の洗い出し(切り出し)、体験等に対応する仕事情報の作成、それを活用した相談支援の進め方まで、新たな作業が考えられます。制度として位置付けるならば、給付制度や組織の構造改革が必要でしょうが、より適切な支援と働く場で合理的配慮の確保を考えれば、現行の支援活動の中でも取組みは可能だと思います。
また、多様な要支援者を対象とするダイバーシティ就労支援では、利用可能な仕事情報(支援プログラム)の整備や発信は欠かせない取組みになると思います。

Q2:就労支援において必要なのは仕事内容や働き方の情報だが、日本においてはその部分の情報収集を担うのが「支援者」なので、就労支援プログラムを活用することが望ましい、という理解でいいですか?

A:欧州諸国では、「仕事に基づく訓練」、「仕事に従事する研修(フランスのスタージュなど、日本のインターンシップとは異なる数か月単位)」、「デュアル制度」など、仕事と働き方を確かめながら適職を探す支援が普及しています。背景には、相談者(求職者)が多様なキャリア形成を選択することが可能になったこと、デジタル等の影響やグローバル化等によって仕事や働き方の変化が著しいことなどがあるでしょう。
変化する「仕事と働き方」の内容について、雇用主はどう発信するのか、求職者はどう把握するのか、そのための情報や形式は整っているのか? 我が国では労働力の需給調整のための情報である求人が一般的です。しかし、求人という仕事情報は採用等の条件情報が中心で、仕事の内容や働き方、職場環境等の情報はなく、適職を模索する相談者に対する相談支援の現場で使い勝手が悪いと言えます。そこで工夫されたのが、見学や体験を利用した支援でしたが、見学や体験に対応する仕事情報は言語化、見える化されていないのが現状です。就労支援員等の支援スタッフの暗黙知として蓄積され利用されてきました。Q1への回答で言及したように、変化する仕事や働き方について相談支援員や生活支援員等が関心を持っても、就労支援で利用する仕事情報が乏しく、結果、就労支援員等に頼りっきりで、しかも求人をベースにした「閉じた活動」になってしまっているようです。質問の「支援プログラム」は、支援のため仕事情報あるいは「仕事に基づく支援プログラム」、具体には見学や就労体験等による支援内容を言語化したものが必要になっているということです。

Q3:海外諸国では、個人におけるキャリア形成の意識が高く、日本ではその意識が低いので、相談できる環境づくりの必要性が高く、「相談支援」の存在が重要、という理解でいいですか?

A:「キャリアは自分で決める」と答える者の割合が相対的に低いわが国では、就労相談も仕事情報も脆弱ですが、近年、相談支援という活動に対する関心は高まっています。生活困窮者支援制度が登場して、全国の自治体による対象を限定しない相談支援、就労相談が可能になりました。それまでは福祉サービスの利用に付随した形で就労の相談支援が行われ、就労の相談は一般的ではありませんでした。就労の相談窓口(環境)の整備が進んでいることは良いことですが、相談支援の内容はそれほど捗っていません。原因の1つは、実効性のある就労アセスメントとその条件整備が進んでいないことです。「就労やキャリアは個人と環境の相互作用によって実現される」と言われるように、例えば給付型の福祉サービスでは、利用者の申し立てを理解し、適切なサービスを選び提供することで1つのステップが終わりますが、就労支援では、望む環境(仕事と働き方)を選ぶ、確かめるといったプロセスに関わる相談支援が欠かせません。この選ぶ・確かめるプロセスは就労アセスメントの大事な過程ですが、支援者の一方的な聞取りではなく、相談者の「語り」を共に作り出すプロセスだとも言われます。このプロセスに参加する支援者には豊富でわかりやすい仕事情報が不可欠です。そして、仕事情報を利用する体験等のコーディネートが可能になります。効果的な一連の就労支援の成否は、最初の相談窓口の相談力、就労アセスメントにかかっていると言っても過言ではありません。そういう意味で相談支援の重要性を指摘しました。

Q4:体験期間中、交通費など支払う項目は何かありますか? また企業側から協力金のような支払いはあるのでしょうか。

A:就労支援における移動に係る支援は懸案の1つです。生活困窮者制度では就労準備支援で移動にかかる支援が一部可能になっていますが、公共交通等が利用できない地域では交通費より移動手段の確保が課題になっています。農業が盛んな地域では、農作業等の従事しやすい仕事と働き方の機会があっても、就労希望者の移動が困難なためマッチングしないケースが増えています。障害者支援における施設をベースにした支援に伴う自動車の利用は他の分野では未整備な状態です。体験について、支援機関と相談者(体験者)と受入れ企業の3者で確認書を交わす場合もあり(右の事例)、その中で交通費やインセンティブ(協力金や昼食など)の項を設けているところもあります。当面、地域ごとに協力企業等の関係づくりやネットワーク形成、それを支える企業支援を進めながら、こうした事例を積み重ね、制度的な対応を展望していくのではと期待しています。

第4日(11月25日)

【藤尾講師(地域企業との連携(地域企業への就職、実地研修を推進する方策))】

Q1:障害者総合支援法の改正に伴って、地域障害者就業・生活支援センターの機能強化が言われていますが、就労支援の基幹として、改正に伴って、何がどう変わっていくのか。これまでとこれからといった視点で教えて下さい。

A:今回の「就労定着地域連携モデル事業」の趣旨から考えると、地域における働く就労者の「定着支援」に力点を置いていると考えます。その観点から、
 (1)就労定着支援事業との更なる連携強化(3年経過する対象者が出始めている状況を受けて)について模索
 (2)就労定着支援事業が不足している(あるいは無い)地域におけるセフティ―ネットとしての在り方
の2点が大きなポイントになると考えます。これに付随して、地域の就労支援力(福祉サービスにおける)の底上げを図る狙いがあると考えます。

Q2:地域障害者就業・生活支援センターが就労定着を報酬があって出来るようになると、現状の定着支援も含め、半永久的に就業・生活支援センターが定着に関わるという流れになるのでしょうか。就労移行支援事業所との比較でかなり競争優位になると思いますが、民業圧迫的なことにならないでしょうか?

A:雇用と福祉の連携強化プロジェクトチーム第3ワーキンググループでも取り上げられた内容ですが、障害者就労・生活支援センター(ナカポツセンター)が他の事業所と同様の形態で、就労定着支援事業の実施主体になることについては反対意見が挙げられています。ご質問いただいた「民業圧迫」という指摘の前に、ナカポツセンターの「公益性」に疑義が生じかねないという指摘です。ただ、全国的には就労定着支援事業が十分に整備されている状況ではなく(むしろ多くの地域で不足、あるいは実施実態が無い状況)、このような地域における就労定着支援をナカポツセンターが担うべきということは共有されています。そのため、ナカポツセンターが就労定着支援を行うという方向性が示されていると考えます。実際にどのように運用・実施するかについては、今後の検討課題だと考えます。

【若尾講師(ジョブコーチ等による就職後の支援)】

Q1:ジョブコーチの国家資格化について、現在どのような議論がされているかご教示ください。

A:現在の制度に依るジョブコーチは、助成金を活用するに当たっての条件として職場適応援助者養成研修を受講する必要があります。つまり、助成金を活用しない限りは、単なる研修受講の扱いとなり、職場適応援助者養成研修修了者であって「ジョブコーチ」として名乗れる制度にはなっておりません。また、近年の職場適応援助者助成金を活用したジョブコーチの活動状況は低下の一途であり、国策としても転換期であることは間違いない状況下です。昨年度から、厚生労働省障害者雇用対策課マターでの、ジョブコーチの制度や利活用に関する検討を行う作業部会「職場適応援助者の養成と確保に関する作業部会」を設置し、現在までに4回の検討会議を重ねております。その中で、就労支援専門人材の養成を「職場適応援助者養成研修」と令和6年度以降に導入予定としている「基礎的研修」とを重ね、より質の高い人材の養成のために研修体系の重層化を目指しています。さらにこの専門人材の養成だけに限らず、人材確保の問題も検討しており、ロードマップの長い先のこととなりますが、人材確保のためには「国家資格化も視野に入れることが重要」とされています。
今すぐに国家資格化がなされるわけではないですが、これから先の就労支援専門人材の養成と確保を鑑みた時に、この国家資格化も重要な視点であるという議論を行っています。

【寺山講師(キャリア支援に基づくキャリアコンサルティング)】

Q1:お話のなかで、カウンセリング=心理的要素が強い、だからコンサルティングになったという国家資格化に際しての名称選択のお話がございました。ダイバーシティ就労を考えるにあたり、心理的なかかわりは避けて通れないと思いますが、キャリア支援の専門性が確立している欧米では心理的な関わりはあまりしていないのでしょうか。

A:「キャリアコンサルティング」の呼称の経緯については、配布教材の参考文献にある2002年の厚労省の研究会報告からの引用で説明しました。
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3a.html#top

現在、キャリアの問題について相談支援を求めるクライエントは、多く場合キャリアの問題とあわせてメンタルヘルス的や臨床心理学的な問題を抱えていることも多いと思います。そのうえで欧米のキャリアカウンセリングとキャリアコンサルティングはほぼ同じ意味で用いられています。
20年前に日本の労働行政がキャリア形成支援政策の一環として推進するキャリアカウンセリング施策の名称が「キャリアコンサルティング」であったと整理できるのではと思います。
(※)参考文献 下村英雄「新時代のキャリアコンサルティング」(2016年 労働政策研究・研修機構編)

Q2:日本で、リファーを前提とした場合、キャリアコンサルタントは、多職種連携の視点から、どのような役割を担っていくのでしょうか。

A:リファー(クライエントに必要な支援の内容が支援者の有する専門性を超える場合、信頼できる別の専門家に支援を依頼すること)を前提とした場合に、キャリコンサルタントは、働くことに関する相談「キャリアコンサルティング」を行う専門家であり、職業選択、職業生活設計、職業能力の開発・向上に関する相談に応じ、助言や指導を担っていくと考えられます。
(※)参考文献 浅野浩美「キャリアコンサルタント・人事パーソンのためのキャリコンサルティング」(2022年 株式会社労務行政) 

【中崎講師(法人としての取組み(実践例1))】

Q1:お話の中で、「生活に余裕がある人は、支援プログラム、伴走プログラムを経た方が早く安定する」と言われました。 それぞれのプログラムの内容をご教授頂けないでしょうか。 また、知的障害者の4年間訓練の就労移行での訓練内容をご教示いただけませんか?

A:伴走プログラムや困窮者の支援プログラムは、全国各地で自治体や民間がされているところが多いです。内容も支援方法もそれぞれ違うので、そちらにお聞きください。
知的障害者の就労訓練プログラムは、大きく生活訓練と就労訓練に分けられます。基礎の日常生活訓練+ビジネスのための訓練と、スキルアップカリキュラムを作っています。あきないように科目も多く、障害特性で反復も多くしています。

Q2:就労支援サービスの対象者にならない者を、職員として雇用するソーシャルファーム的なスキームを取り入れているとのことですが、職員として雇用する際の報酬支払の財源はどうされていますか?

A:一般の職員として雇用していますので、特別な財源はありません。すぐに従事出来る者は少なく数年かかる場合も多いですが、皆の努力と工夫で雇用しています。中には、免許も取って管理職になった人もいます。

【池田講師(法人としての取組み(実践例2))】

Q1:有償コミューターや雇用者への報酬の支払いが、通常の営業収益の中から支払われるのか、何らかの支援金、助成金が充てられているのか、制度を運営する財政面についてご説明をお願いいたします。

A:生活クラブ風の村では、毎年の経常収支差額(一般企業の経常剰余金に相当)のうち、その一部を「地域づくり支援積立金」として積み立てています。その積立金を原資にしています。ちなみに、社会福祉法人がおこなう事業のうち第2種社会福祉事業はNPOや一般企業も事業をおこなっています。そして、NPOや一般企業は利益が出れば、その中から法人税を支払いますが、社会福祉法人は税金を払いません。そこで、この法人税相当額を積み立てて、ユニバーサル就労やその他の地域貢献活動の財源にしています。

【朝日講師(ダイバーシティ就労支援の展望)】

Q1:障害者就労行政のダイバーシティ化をどう進めていくべきでしょうか?

A:障害者就労行政における「障害者」の概念を広げていくことがダイバーシティ化を進めていく上で重要です。諸外国の「障害者」は、社会的要因で生み出された「社会的障害」等、日本の障害者より広範な人々を含んでいます。例えば、デンマークでは、就労困難者に対する職業リハビリテーションの対象者は、本人(障害者、社会的に排除されている者、難民)とその家族、となっています。日本のように、いわゆる医療モデルに基づく身体障害者、知的障害者、精神障害者に限定した取組みでは、社会的、環境的要因によって就労困難が生み出されていると考える社会モデルへの対応に限界があります。そこで、障害者の枠を超えたダイバーシティ就労の推進が求められています。具体的には現行の障害者就労支援制度を障害者以外の就労困難者への拡大、障害者その他労働市場で不利な立場にある人々とそれ以外の人々が同じ条件で一緒に働くソーシャルファームの推進等が考えられます。また、この課題の重要性の世間への周知、就労支援者の養成等も重要であり、日本財団ワークダイバーシティプロジェクトで積極的に取り組みたいと思います。

【事務局へのご質問】

Q1:ダイバーシティプロジェクトは、現行の障害者福祉的就労サービスを変えていこうとしているのでしょうか。

A:ダイバーシティプロジェクトは、障害者就労行政の対象者を広げていきたいと思っています。諸外国の「障害者」は、社会的要因で生み出された「社会的障害」等日本の障害者より広範な人々を含んでいます。例えば、デンマークでは、就労困難者に対する職業リハビリテーションの対象者は、本人(障害者、社会的に排除されている者、難民)とその家族、となっています。日本でも障害者の枠を超えたダイバーシティ就労の推進が求められています。具体的には、現行の障害者就労支援制度を障害者以外の就労困難者へ拡大すること、障害者や多様な要因のため労働市場で不利な立場にある人々とそれ以外の人々が同じ条件で一緒に働くソーシャルファームを推進すること等が考えられます。