(1)キャリア権とは?

時代の流れは、現に従事する職務保障から、一定の雇用保障の要請を経て、生涯を通じたキャリア保障に向かっているとの基本認識から、法政策を主導する法理念として、諏訪康雄法政大学名誉教授により「キャリア権」が提唱されました。そして、2001 年改正における旧雇用対策法や職業能力開発促進法に一定の影響を与え、実定法的な橋頭堡となっています。その後、法令には職業生活に関連する規定が増加し、日本型の働き方への見直しの機運も高まり、キャリア権論に基本的に賛成または注目する法学説も少しずつ目立ってきています。

労働力の逼迫やキャリア形成への関心の高まりという追い風もあり、企業に人事権がある一方、労働者にはキャリア権があり、両者間での調整がもっと必要なのではないかというバランス論が受け容れやすくなってきています。キャリア権の理念は、人びとが意欲、能力、適性に応じて希望する仕事を準備、選択、展開し、職業生活を通じて幸福を追求する権利といった考え方に帰着しつつあります。

キャリア権は人びとのキャリアを支える法的な基盤です。

(2)キャリア権関連文書

【政府文書、研究会報告等】

「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書」(事務局:人材開発統括官付人材開発政策担当参事官室)、2020年10月

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13964.html

○厚生労働省「キャリア形成支援」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/career_formation/index.html

・「キャリアコンサルティング」など、個人のキャリアアップのための支援について紹介しています。

「あなたのスキルアップやキャリア形成を支援します!」(厚生労働省リーフレット)

https://www.mhlw.go.jp/content/001084236.pdf

・働いている方やこれから働こうとしている方が、スキルアップやキャリア形成をしていくための厚生労働省の支援策の紹介。

【個人論考】

(1)「キャリア権」を最初に提唱した諏訪康雄法政大学名誉教授の主要文献

諏訪康雄(2023) 「第10章 キャリアをめぐる法学分野からの概説」、『2022年度新労働政策研究会報告書』
https://jodes.or.jp/wp-content/uploads/2023/06/New_Labor_Policy_Research_Group_Report-FY2022.pdf

─(2022)「『キャリア権』とは何か?」『グローバル経営』2022年12月号、20-21頁

(2017)『雇用政策とキャリア権─キャリア法学への模索』弘文堂(所収のキャリア権提言論文は 1999 年発表)

─(2015-2020)「キャリア法学への誘い(No.1~No.20)」季刊労働法249~268号連載

(2)「キャリア権」を論じた文献

岩田克彦(2009)「職業能力開発に対する政府関与のあり方─政府関与の理論的根拠、方法と公共職業訓練の役割」、『日本労働研究雑誌』583号、83-91頁
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2009/special/pdf/083-091.pdf

大内伸哉(2023) 「政府、人材育成に積極関与 失業給付見直しと雇用流動化」、『日本経済新聞』2023 年 4 月 13 日朝刊(経済教室)

─(2017)『AI 時代の働き方と法─2035 年の労働法を考える』、弘文堂.
大内伸哉・唐津博・水町雄一郎・盛誠吾(2002)「2002年 学界展望 労働法理論の現在─1999~2001年の業績を通じて」『日本労働研究雑誌』499号
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2002/01/academe/06.html

大和田敢太(2006)「職業教育訓練立法の形成と変容」『彦根論叢』363 号,1-23 頁

鎌田耕一(2023) 「第 11 章 今後の労働市場法政策のあり方 ―キャリアを活かす労働市場の法政策―」、『2022年度新労働政策研究会報告書』
https://jodes.or.jp/wp-content/uploads/2023/06/New_Labor_Policy_Research_Group_Report-FY2022.pdf

─(2022) 「労働法におけるキャリア権の意義」、道幸哲也・加藤智章・國武英生・淺野高宏・片桐由喜編著『北海道大学社会法研究会 50周年記念論集 社会法のなかの自立と連帯』旬報社、2022 年 169-186頁

唐津博(2009)「労働法パラダイム論の現況と労働法規制の多元性」
『労働法律旬報』1700 号,6-21頁.

小西康之(2014)「これからの雇用政策の理念と長期失業への対応」『日本労働研究雑誌』651 号,81-90頁.
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/10/pdf/081-090.pdf

髙井伸夫(2022) 「「キャリア権」法制化の提言~日本のより良き未来のために」、『法苑』195号、新日本法規
https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article1889223/

野川忍(2014) 「労働法制から見た雇用保障政策─活力ある労働力移動の在り方」、『日本労働研究雑誌』647 号,66-76 頁.
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2014/06/pdf/066-076.pdf

長谷川聡(2019) 「職業能力形成における労働者の主体性の保障と労働組合の役割」、連合総合生活開発研究所『個々のキャリア形成と職場組織の関与のあり方-キャリア形成への労働者及び職場組織の関与のあり方に関する調査研究報告書』、連合総合生活開発研究所、2019年、111-122 頁

https://www.rengo-soken.or.jp/work/feda1db4d253ce09214ae713bbf70bed3f9db470.pdf

両角道代(2017年)「第4章 キャリア権の意義」、『講座労働法の再生 第4巻 人格・平等・家族責任』、日本評論社、95-114頁