医療機関は仕事の宝庫です

「たいせつに使っています。ありがとうございます」、「いつもきれいに切っていただきありがとうございます」。これらは、院内の障がいのあるスタッフの作業室にある掲示板に貼られたメッセージカードです。病棟や外来の看護師から届けられたカードには、感謝の言葉が溢れていて、障がいのあるスタッフが仕事をする上での励みとなっています。

感謝されているのは、点滴針を固定するテープのカットです。点滴針の固定用テープは、従来、病棟や外来で看護師が業務の合間に作っていました。看護業務に忙殺される中での作業には負担感も大きく、ともすれば雑な仕事になりがちでした。障がい者雇用を始めるに当たり、どんな業務を任せたいか看護部内で検討し、専門職でなくても行える比較的単純な作業として提案されたのが、この業務でした。ロール状のテープから決められた長さをハサミでカットし、剥がれにくいように四隅を面取りします。きれいにカットされたテープが箱に整然と並んで納品されたのを見たとき、看護師からは「自分たちが切るよりずっと丁寧できれい」と、感嘆の声が上がりました。

最初は試しに1つの病棟から発注されたものですが、出来栄えが評判となり、他の病棟や外来からも次々と仕事が依頼されるようになりました。さらに、「この仕事ができるならこういう仕事もできるのでは」と、シートのカットと折り、清浄綿や注射器等のパックの切り離し、処置セットの袋詰めなど、現場から新たな提案が相次ぎ、仕事の種類や量はどんどん増えました。それに伴い、雇用されるスタッフの人数も増えました。看護師が行っている業務の中には、専門資格がなくても行える業務が数多くあります。それらを任せることができれば、看護師は専門資格を活かす業務に専念できます。他の専門職についても同様なことが言えます。 「働き方改革」が医療機関にも求められる中で、こうした障がい者雇用に伴う業務の再編成は、専門職の働きがいを高めることにもつながります。

医療機関の業務の中には、大きく分けて「事務系の業務」と「医療系の業務」があります。「事務系の業務」は、医療以外の他の産業分野とも共通するものです。一方で「医療系の業務」は、まさに医療機関ならではの業務で、業務の種類も量も相当なものが院内に存在します。この分野の職域をどう開発するかが、医療機関の障がい者雇用を進める「鍵」となります。

医療系の業務の中には、内視鏡の洗浄作業のようなものもあります。作業を始めるにあたり、感染制御チームの協力で細かな手順を示した作業マニュアルを作成してもらい、マニュアルに従って確実に作業をしています。仕事の丁寧さが担当医師からも高く評価され、医療の第一線で医療チームの一員として活躍しています。

数人の障がい者を雇用している病院では、複数の部門に分散して配置するのではなく、チームを構成して専任の支援者(ジョブコーチ)を配置して、院内各所から業務を引き受けているところもあります。チームによる就労だと仕事の種類も多彩にできるため、個々のスタッフに適した作業を割り当てることが可能です。小さなチームで試行的に始めて、仕事の出来栄えを確認しながら新たな職域を開拓し、徐々にスタッフを増やしていけば、無理なく「職員に歓迎される障がい者雇用」が実現できます。

「医療機関の障がい者雇用ネットワーク」のホームページ(https://medi-em.net)には、医療機関で開拓された障がい者雇用の様々な職域やノウハウを紹介しています。医療機関で障がい者雇用を進めるのは難しいと考えていたら、是非一度、ホームページをご覧ください。

筆者紹介

今回は、医療機関の障がい者雇用ネットワークの代表を務める依田晶男さんに、医療機関にも、障がい者始め就労に困難を感じている人たちの働く場はたくさんあることを紹介してもらいました。 そして、彼らが医療機関内の大切な仕事を受け持ってくれることにより、看護師さんはじめ多くの皆さんに喜ばれ、感謝されていることがわかりました。    

依田晶男さんは、昭和56年に旧厚生省に入省。福祉部門、医療部門、障がい者雇用部門など厚生労働行政の各分野を幅広く歴任されました。厚生労働省を退官後も、自ら精神保健福祉士の国家資格を取得して、ライフワークである障がい者雇用、特に医療機関における障がい者雇用を広めるべく全国に向け発信しています。フォーラムや講演会にも数多く登壇しています。

「明るい話題」について

世の中には、制度の谷間にあって、働く気持ちがあっても就労に対する支援やサービスが受けられなかったり、何とか働きたい気持ちはあるのにその手助けが得られなかったりする人がたくさんいます。また、社会の側にも、この人たちの働く気持ちをブロックする強力な壁があったりもします。

このコーナーでは、色々な事情があって働くということが容易でない中で、働き、働き続けようとされている方々とそうした思いを支援している方々にエールを送るとともに、より多くの人たちが熱いエールを送る仲間に加わっていただけるよう、明るい話題を提供していきたいと思います。このコーナーにふさわしい話題をぜひご紹介ください。